分厚い大著です。
日本で,ある分野を網羅したこの位の規模の書籍を発行するとなると,大御所が監修して多人数掛かってということになりそうです。そして,どうしてもハンドブック的にものなってしまいます。
この本の原著は,Neville H. FletcherとThomas D. Rossingの2人で書かれています。
ある分野のバイブル的名著を2人で著した方の一方からお話を聞いた事があります。大手企業の中央研究所に所属でしたが,すべての休日を執筆に充てたと仰っていました。忙しい現代,現役中に落ち着いて大著をあらわすのはなかなか大変な事なのではないでしょうか。
Fletcher氏はオーストラリア国立大学所属,Rossing氏は米国・北イリノイ大学所属。国を跨いだ共著です。
日本語訳は岸憲史,久保田秀美,吉川茂の3氏による翻訳。それぞれ得意分野の翻訳を手がけていらっしゃいます。大学の研究室などで,楽器研究を開始する学生などが読むのに良い本だと思います。
全22章から成ります。
第I部が「振動系」として第1章〜第5章で構成されます。いわゆる振動論の基礎事項がまとめられています。各論を学ぶ上での基礎事項を参照する事ができます。もちろん初学者はここから読めば良いでしょう。別途振動論の本を参照しなくても済む様になっています。
第II部が「音波」で第6章〜第8章。波動としての音の基礎を扱っています。特に第8章のパイプとホーンに関する記述が詳しい印象です。管楽器の基礎に関わるからでしょう。
第III部が「弦楽器」で第9章〜第12章。第9章ギターとリュート,第10章擦弦楽器,第11章ハープ,ハープシコードとダルシマー,第12章ピアノとなっています。ピアノが弦楽器になっていますが,音響物理的に捉えればもっともなのでしょう。
第IV部が「管楽器」で第13章〜第17章。第13章で基礎・総括的な記述の「リードおよび唇の振動による音の発生」,第14章が金管楽器,第15章リード木管楽器,第16章フルートとフルー・オルガンパイプ,第17章パイプオルガン。
第V部が「打楽器」で第18章〜第21章。第18章ドラム,第19章マレット系打楽器,第20章シンバル,ゴング,プレートおよびスチールドラム,第21章ベル(鐘)。
第VI部が「材料」で第22章「楽器の材質」です。
各章が6〜20節で構成されています。
当記事では,第9章の「ギターとリュート」に関する章を見て行きたいと思います。
この章は17節からなり,全章の中で2番目に詳しい章です。筆者らが直接ギターの研究に関わっていることと無関係ではなさそうです。とはいえ,大著のpp.235-267の33頁の記述にとどまっています。専門的に研究するには,引用されている参考文献などを当たったり,さらに新しい論文をチェックする必要があるでしょう。
次回から,同章に紹介されているギター・リュートの関する研究成果の一端を垣間見る事にします(つづく)。

この記事へのコメント
たこやきおやじ
私なんぞはこんな本を買って読む気はしません。Enriqueさんの分かりやすい解説に期待します。(^^;
Enrique
丸々の解説は著作権問題もあると思いますので,なるべくかいつまんで重要そうな結論のみとしたいと思います。
アヨアン・イゴカー
音響学の本とのことで、どのようなご紹介があるか、楽しみです。
Enrique
実はすでに拾い読みはしていて,過去の記事でも少し触れています。
すでにやや古いかも知れませんが,音響的な研究に関してはそう急激な展開も考えにくいので,まずはこの書籍でスタートラインに着くのも良いかなと思っています。
SKG
楽器の物理に関心がある者にとってはバイブルに近い本だと思います。
全部を読んではいませんが、円形膜の振動の方程式や振動モード、棒振動の数学的分析などは興味深く読みました。
私自身はギター、フルート、ピアノ、チェロを持っています。
楽器の物理について知識があると楽器練習の初期段階の立ち上がりが早い(ギター、フルート、チェロ)と感じています。
最近は
https://www.youtube.com/@japanorium
なども興味深く見ています。
Enrique
かつて当方はアメリカのギター製作家のギルドが出していた"Journal of Guitar Acoustics"という論文集を入手して見ていましたが,あまりにも細かすぎるので,もう少し基礎的な書物ということで,そこでよく引用されていたこちらの書物を入手しました。順番的には,こちらを先に学習してから,原著論文などを当たるのが良いと思いました。
最近では志野文音さんが藝大に提出した博士論文もギターの音色を研究した貴重な例だと思いました。