「角を矯めて牛を殺す」

会社に入社したての新人研修で,この手のことわざ(四字熟語など)を発言したところ引かれました。

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そんな諺のようなものを引き合いに出されても,「あなたのいう事は分からない」と。それも,仮配属された職場で高い評価を受けているらしいある新人から。元気よく積極的な人ではありましたが,一般常識はおろか論理性の欠片もない人で,「Aと言う問題を解決するためにはどうしたらよいか?」という議論に関して,「Aをしなければ良い!」と堂々と言う者でした。そのくせ何かと主導権を取りたがります。

配属も職種もランダムな数人のグループ内で,当人の様々な評価項目につき上司・同僚・自己評価ポイントをはり出して,ディスカッションをします。各ポイントは低くてもさほど問題はない様で,自己評価は高いのに周りの評価は低いとかあるいはその逆とか,認識のズレが問題の様でした。なぜそこがズレているのかなどをまず当人が発表し,それを元に,そうだとかそれは違うとか結構な時間をかけてやります。各人の発表風景はビデオ撮影をされました。

上で挙げた人物はグループ内の一人。点数評価や周りの評価,場の雰囲気などを察知する能力には長けているようでした。当方には人間的魅力も業務遂行能力も感じられませんでしたが,上司からは格段に高い評価を受けていました。当方の性格などを盛んに指摘するので,彼の大いなる欠点もしっかり指摘した事は言うまでもありません。 そこからひねくり出した各人の問題点の改善策を再度本人から発表させました。現在はどうなのか知りませんが,大手R社開発のこういう「いじめあい」研修が社員研修として大手を振っていました*。

あちこち尖った色んな個性を持った若者を,一緒に集めて,それぞれのパーソナリティについて事前に職場でとったデータをもとに議論させる。いわばいじめ合いをさせる事で,角が取れた扱いやすい人材にしようという意図でしょう。かなり効果はあったようです。吃音などが治る者もいる一方,耐えきれず逃げ出す者もいたらしいので,人里離れた会場で行われました。

当方は理系の技術者ですし,研修で一緒にされた文系出身者にとってはそのくらいの諺の意味は当たり前のことだろうと思っていましたので,彼ら大学や高校で一体何を学んだのだろう?とショックでした。

一体どういう話をしたらこの人たちに響くのかと。
何分新人研修は上記の様な状態だったので,終了(修了?)時の意見発表時,当方の偽らざる心境として,「こういう新任者教育は『角を矯めて牛を殺す』事にならないか心配だったが,何とか自分は死なずに生還した」という意味のことを言ったら,やはりポカーンとされたのでした。

会社は十年余りで退職しましたが,それでもこの期間当方によく務まったものだと思います。


*この手の研修は,新人時代だけでなく中堅や役職になっても繰り返され,職場単位でも行われました。当方は受けませんでしたが,課長クラスの研修だと,研修中で当人不在の職場のビデオを見せて,「どうだ,お前がいなくてもちゃんと職場は回っているだろう?」と,イジメられたとのこと。

この記事へのコメント

  • アヨアン・イゴカー

    私が最も苦手(好きではない)とする研修です。角の曲がっている私は、殺されるか、逃げ出すかするしかないでしょうね^^;
    2024年10月14日 08:54
  • Enrique

    アヨアン・イゴカーさん,
    そうそう角が真っすぐな人も多くはないと思いますが,真っすぐな人でも平均的に曲げられるのかもしれません(笑)。
    「何て会社に入ったのだろう?」と思いましたが,逃げ出す元気も無くやむなく従いました。聞くところでは,他社では新人はふんどしで川に入って禊ぎをやるとか,自衛隊に体験入隊させられたとかも聞きましたので,私の経験は特に酷いというよりは平均的なパターンなのかなと思います。
    一連の研修中,学んだ事は何だ?という意見発表があったので,私は皮肉を込めて忍耐力だと言いました。そこの上司は「大変良いものを学んだ」と褒めてくれました(むろん何の嬉しさもありませんでしたが)。
    この手の研修は合計3回くらい記憶があります。最後の職場のグループでも似たようなものがあり,ある女性などは泣き出してしまいました(その方が正常)。その女性はその後会社を辞め,私も辞めました。同じ事業所の本社採用同期入社組は25人いましたが,私が辞めた時は確か5人しか残っていませんでした。それでも特にブラック企業というわけでもなく,もっと酷いところもあったようです。
    2024年10月15日 14:33
  • kazg

    そもそも、上から与えられる「研修」というものになじめません。ご紹介のような場には、とても適応できないと思います。いびつな角でも、矯められることは拒みたいです。たまたま、自分の経験の中では自己の内面にまで踏み込まれるような「研修」には遭遇しないで済みましたが・・・。
    2024年10月22日 11:23
  • Enrique

    kazgさん,
    私は会社の後,高校教員になりました。そこでは,教職員組合が反対していた初任者研修がありましたが,週1日研修日に充てられ,講演の聴講やお遊びのような事をやりました(当方は会社の研修の経験があったのでそう思いました)。人の名前が覚えられないので,ちょっと大変でしたが,精神的には楽でした。当時40近い私が大学出たての人たちと一緒に研修でしたので,短期記憶の悪さはカンベンしてもらいました。週一日使うのももったいない気もしました。流石に高校では会社と違い休日や夜に研修はやりませんでしたが,その分「部活動指導」という無間地獄がありました。
    会社では何であんな研修をやるのか疑問でした。そういえば同教材開発のR社の人たちは30代くらいでみんな頭髪が真っ白でした。
    2024年10月22日 13:50