コメが美味しくない

何時頃からとなく感じている事ですが,コメに香りやモチモチ感がありません。

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かつてなら,新米には独特な香気があり,モチモチと軟らかかったものです。新米には1割水を減らせとか言われたものでした。

現在それは全く通用しません。新米でも古米でも大差ありません。

理由を考えてみます。

まずは収穫にコンバインを使う事。
これ自体直接コメの味に影響を与えているとは思えません。

問題はその後の工程です。
収穫したてのコメは大量に水を含んでいますから,乾燥が必要です。
かつて稲わら付きで収穫した稲は,稲架がけして天日乾燥をしていましたが,コンバイン・ハーベスターでは稲刈りと同時に脱穀までしてしまい,籾の状態で収穫しますから,これを乾燥するには乾燥機にかけます。

恐らく,規定の含水率に一挙に持っていくのでしょう。
その後籾すりです。籾すりされたコメが玄米です。普通に炊いて食べるコメはこの玄米を精米して白米にしたものです。

以下に,稲刈り後の伝統的なやりかたと現在のやりかたを比較してあげます。

伝統的なやりかた:
稲刈り → 稲架がけ乾燥 → 脱穀 → 籾摺り → 精米

現在のやりかた:
コンバインで籾を収穫 → 乾燥機で乾燥 → 籾摺り → 精米


上に書いたように,稲刈りしたコメが食べられるまでには,いくつかの工程があります。
伝統な工程では,稲刈り後,稲架がけ乾燥です。しっかり乾燥しないとこの後の工程がうまく行きません。
その後,脱穀です。これは稲から籾を取り外す作業です。
籾摺りは,籾からもみ殻を除いて玄米にする作業です。
玄米で食べる人も偶にいますが,通常は白米にして食べます。玄米から白米にする作業が精米です。普通売っているコメはこれです。

当方は農家ではありませんが,子供時代に田植えから精米まで全て経験した身としては一般の方々のコメに対する認識の無さは愕然とします。説明をし出すと,「そんな事面倒だから知らん」と。


現在のコメの食味の劣る理由は,温度の問題だと考えます。
現在の工程では,コンバインで収穫された籾は,その後の熱乾燥で死んでしまいます。
種籾にするコメは,刈った稲を自然乾燥するはずです(現在では管理された種籾を買うのかもしれませんが)。

乾燥された籾は(伝統工程では脱穀後)籾摺りをして玄米にします。通常コメはこの状態で保管されます。

最終工程が精米です。玄米から白米にする作業です。
NHKの番組では脱穀と籾摺りを取り違えていますが,籾摺りと精米を混同もしくは取り違える人もいます。籾摺りは籾殻を取り除く作業で,食べられるコメにするには必須です。現在の機械では回転数の異なるゴムローラーの間を通して籾からもみ殻を引き剝がす作業です。この工程ではさほど温度は上がらないと思いますが,問題は最終工程の精米です。乾燥さえ適切ならば,容易に外せるもみ殻とは違い,玄米を覆っている糠の層は薄くても丈夫です。栗に例えれば外皮は剝けても渋皮剝きに難儀するようなものです。これは玄米に圧力を掛けて螺旋でぐりぐりとやってコメ同士を文字通り切磋琢磨させます。その後ふるいを通して糠を取り除くのが精米の原理です。

この作業は,掛ける圧力を上げれば効率は上がりますが,コメ同士をゴリゴリ摩擦させますので,その問題は温度が上がる事です。夏場などに精米していますとコメはかなり熱くなります。掛ける圧力を下げれば,温度上昇は避けられますが,精米機を何度も通さないといけなくなり,時間が掛かります。


乾燥時の温度上昇と精米時の温度上昇により,コメの香りが飛んでしまうのではないかというのが当方の見立てです。特にこのごろよく見る無洗米は,コメを研ぐ時間が節約できて便利ですが,精米時によりゴシゴシやっているはずですから,温度上昇は避けられないでしょう。温度上昇が良くないのは,コメに限らず,そば粉の挽きでも石臼が優れている理由の一つです。いずれも食べる時は加熱するわけですが,香りなどとは儚いものです。私に言わせれば,昔のコメが生米ならば,現在のコメは加熱処理米とでもいえるかも知れません。

乾燥時の温度上昇と精米時の温度上昇,どちらがより効くのかあるいは両方なのか。経済効率をとるか食味をとるか。おそらく食味に効くのは,掛ける温度と時間とを考えれば,籾の乾燥時が圧倒的であり,温度が一瞬上がる精米後はなるべく早く食べる事を心がければそれほどでもない様な気がします。最近コメが不足して値段が上がりましたが,近年安い時代が続いていたわけでそうそう手間暇をかけていられなかったのは理解できます。

山間の田んぼなどでは,いまでも稲架がけをしている光景が見られます。
私のコメに対する感想が単なるノスタルジアととられないためにも,何とか稲架かけ米(でゆっくり精米したコメ)を入手して食してみたいものです。

この記事へのコメント

  • アヨアン・イゴカー

    大変興味深いご説明でした。
    効率化の代償ですね。生産物すべてに当てはまるように感じます。
    2024年11月19日 09:52
  • REIKO

    確かに昔は稲の自然乾燥が当たり前で、どこまでも続く田んぼの中に稲架木が立っている様子は、自分の原風景でもあります。
    それが大人になるにつれ、田んぼは宅地用に埋め立てられ、稲架木も徐々に減っていき、その頃親は「農家は自分の家で食べる分だけ稲架木で干してるんだよ、その方が美味しいからね」なんて言っていました。
    ただ自分としては、近年は品種改良や栽培技術が進歩して、北陸や東北以外のコメも本当に美味しくなったことが驚きです。
    30年ほど前に北海道のブランド米を試しに食べたら、味が全然なくて食べるのが辛かったですが、今は「ゆめぴりか」も「ななつぼし」も美味しいです!
    2024年11月19日 14:08
  • Enrique

    アヨアン・イゴカーさん,
    むろん効率化は素晴らしい点はあるのですが,代償は払っているということでしょうね。
    2024年11月19日 14:29
  • Enrique

    REIKOさん,
    たしかにコメの工業的な品質は昔よりも明らかに上がっていると思います。仰るように品種改良の成果がありますね。かつて北海道産のコメは食べられたものではありませんでした。IH炊飯器の普及も大きいかも知れません。
    また,かつてなら胴割れ米などの砕米が多く出たものですが,均質に乾燥するのでそういうコメも出にくいでしょう。栽培技術の進歩により,かつてなら鳥のエサにしたような未熟なクズ米も出にくいのではないでしょうか。検査等級も細かく分ける必要が無く5段階から3段階になっています。
    ただ,均質な工業的品質は上がっても,コメに新米の香りが無い,かつてのコシヒカリにあったモチモチ感が無いというのが当方の不満です。
    2024年11月19日 14:40